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タイのごみ調査に参加して
私は2004年6月26日から7月25日まで1ヶ月間、国際協力銀行(JBIC)の提案型調査「タイ国官民協力ごみ管理システム構築可能性調査」(元請:廃棄物政策研究所)で、タイに出張して来ました。この調査について、以下に簡単に内容をご紹介したいと思います。
(1)本調査に至る経緯
本調査は、2002年11月に提案型調査としてJBICにプレ・プロポーザルを提出し、2003年1月に本プロポーザルを提出し、2003年2月にJBICによる面接・プレゼンテーション審査を受けた結果、2003年3月にJBICによって採択され、2004年3月にタイ側カウンターパート(天然資源環境省の公害防止局及び天然資源・環境政策・計画部)と合意書を取り交わして開始されたものです。聞くところによると、大変な数の応募があった中、採択された数少ない提案型調査ということです。
本調査がきびしい競争を勝ち抜いてJBICに採択された理由を私なりに推測してみますと、(a)JBICが過去に実施した事業(タイ国環境保全基金事業)に密接に関連した(発展的な)案件であり、かつ(b)提案者(廃棄物政策研究所の代表和田英樹氏)がJBICの仕事(タイ国環境保全基金事業の案件実施支援調査(SAPI)フェーズ1及びフェーズ2)の経験があり、さらに(c)日本の民間がもっている廃棄物処理業・リサイクルの経験を移転するというアイデアが評価された、と感じております。
タイ国環境保全基金事業は、タイの地方自治体(municipalities)がごみ・下水処理施設を整備促進することを目的に、1994年から2004年1月まで実施された円借款案件(エンジニアリング・サービス実施:パデコ)ですが、地方自治体におけるごみ・下水処理施設の整備がなかなか進まないという問題が生じたため、2001年秋にこの案件の案件実施支援調査(SAPI)フェーズ1(実施:日本工営)が実施され、地方自治体向けのごみ・下水処理施設整備の案件形成マニュアルを作成し、地方自治体向けの研修を実施しました。さらに、2003年秋には、具体的に3つの地方自治体を選んで、ごみ処理施設整備というハードウエアだけではなく、ごみの収集からリサイクルに至るまでのソフトウエアも含んだ総合的な戦略計画策定を支援するSAPIフェーズ2(実施:廃棄物政策研究所・日本工営)が実施されました。
じつは私が廃棄物政策研究所(社員数わずかに3名の会社です)の和田英樹氏と知り合ったのも、2001年秋に実施されたSAPIフェーズ1の時で、和田氏は当時私と同じく一団員として参加されていましたが、和田氏の「大局観をもった精力的な仕事ぶり」は当時から調査団の中でぬきんでていて、カウンターパートの評価も高かったことをよく覚えています。なお、和田氏はSAPIフェーズ2では団長を務めています。
(2)本調査の目的
本提案型調査は、このような流れの中で、SAPIフェーズ2のフォローアップをしながら、かつ日本の廃棄物処理業の経営・技術ノウハウを活用してタイの地方自治体に協力する可能性を、官民協力(Public-Private Partnership、略してPPPといいます)というフレームワークの中で探っていこうという目的で実施されました。
(3)本調査の特徴:日本の経験を移転する
この調査が生まれた背景には、今回の調査団長の和田氏の中に、日本の経験をタイに持ち込むには、実際に日本でごみ問題に取り組んできた経験を持つ人を連れてきたい、それには日本の廃棄物コンサルタントではなく、実際に最終処分場の建設・運営や住民対策や廃棄物起源のリサイクル事業に取り組んでいる日本の廃棄物処理業の人に来てもらうのが一番ということになり、今回の調査には日本の廃棄物処理業((株)ヤマゼン)の方2名が参加しました。実際に彼らは今回の調査期間中に4つの地方自治体の最終処分場(埋立地)を視察しましたが、彼らの経験から具体的な最終処分場運営の改善策を提言してもらえましたし、また民間企業として将来タイに協力する可能性についても忌憚のない意見を出していただけました。
(4)タイのごみ処理の現状と日本の経験との関連性
タイではこれまで1000以上のごみ最終処分場(埋立地)が建設されてきましたが、そのうち国家の環境基準(悪臭、汚水等)を満たしているのは、環境保全基金などによって融資されて最近建設された104カ所にすぎず(その中で「衛生埋立」と呼ばれる国際的な環境基準に達しているのは、さらに10分の1ほどしかないのが現状です)、まだまだopen dumpingと呼ばれる、何の処理もせずにごみをただ捨てるだけのごみ捨て場が多いのが現状です。さらに悪いことには、衛生埋立地として設計され、施設的にはその条件を満たしているにも関わらず、管理・運営予算の不足や管理者の不在あるいは意識の低さから、しっかりした管理・運営がなされていないために、悪臭・汚水問題が発生している最終処分場が多々あります。一例として、私達がタイ東北部のコンケンで見た管理の悪い最終処分場の写真を下記につけておきます。

タイ東北部コンケン市の悪臭漂う最終処分場
このようなごみ捨て場からの悪臭・汚水による環境問題は周辺住民からごみ捨て場の新規建設反対運動(Not In My Back Yardを略してNIMBY問題といわれています)が起こる原因となり、またごみ捨て場の劣悪な環境の中で労働と生活をせざるを得ないごみあさりの人達(英語ではscavengersと言っていましたが、より中立的なwaste pickersという言い方に言い換えるようになってきています)への健康被害問題も大きな問題となってきています。
和田氏によると、日本でも30年ほど前は同じような状況の処分場が普通に見られたそうです。しかし、その後、日本はリサイクル可能なごみ(紙、金属、びん等)の「分別収集」を、自治体の政策によって強制的に導入しました。また、土地のない日本では焼却炉が普及したために、日本の最終処分場は焼却灰を埋め立てる衛生埋立が多いのですが、この最終処分場が政府が決めた構造基準を遵守しているため、現在では悪臭はほとんどなく、また汚水管理もしっかりとなされており、周辺住民からの苦情も大幅に減ったそうです。
このように、ごみ問題は、単にごみ処理施設というハードウエアを建設するだけで解決する単純な問題ではなく、政府による強力な誘導政策(特にごみの分別収集・リサイクル政策)、民間企業の育成と技術開発、行政による民間企業への柔軟な委託制度と適正な監督・指導体制、住民の意識改革と住民参加、等と「社会システム」全体にまたがる解決策が必要な、きわめて総合的・社会的な問題であり、援助でも、政策提言、住民への教育活動、地方自治体や民間企業の能力開発・育成といったものを含んだ総合的な処方箋の実施を支援することが重要になってきます。
ちなみに、ごみの混合収集(ごみを分別しないで収集すること)が当たり前となっているタイで、日本のごみの分別収集の話をしますと、タイ人からは「タイ人は日本人ほど勤勉でないから、ごみを家庭で分別してもらうなんて無理だ」という答えが必ず返ってきますが、皆様もよくご存じのように、日本人が勤勉だから自ら進んでごみの分別をしているというわけでは決してありません。日本人は自治体によって分別を「強制」されているので(つまり、分別しないとごみを収集してくれないので)、分別収集に協力せざるをえなくなっているというのが実態なのです。
タイでも、学校やNGO等を中心に、ごみ銀行(ごみを持って行くと、それを金額換算して銀行預金としてくれる)や、有価ごみを栄養価の高い卵に交換してくれる運動(Garbage for Eggs)や、EM菌を利用した生ゴミの堆肥化に取り組む等、小規模なリサイクル活動が始まってきていますが、まだまだ規模が小さく散発的なことが弱点です。今後、リサイクル活動を本格化し広域に普及していくためには、どうしても地方自治体による誘導政策が必要だといえます。参考までに、下記にごみを原材料にして装飾品を作って販売している、タイ東北部のシサケットの学校の写真と、コンケンでNGOが生ゴミから堆肥を作っている様子の写真をつけておきます。

ごみを原材料にして装飾品を作って販売しているタイ東北部のシサケットの学校

生ゴミから堆肥を作っているコンケン市のNGO
したがって、自治体がごみの分別収集の必要性(リサイクル率の向上とごみ収集・処理コストの低減に有効)を住民に十分に説明して実施に移していくという「強い意志」を持つことがまずなによりも重要だと私達は考えており、そのようにタイの自治体にはっぱをかけています。もっともごみ収集サービスが普及していない地域、すなわちごみがどこにでも投げ捨てられているような地域では、まずはごみ収集サービスを普及して、住民の衛生観念向上と衛生的な環境作りを確立することが先決だといえますが。
(5)日本の民間企業の参入可能性と政府による支援政策の重要性
これまでにもタイに進出してきた日本の廃棄物処理業者がないわけではないのですが、すべて工業団地における日系企業の産業廃棄物処理を対象にしており、地方自治体が扱っている一般廃棄物処理にはまだどの日本企業も手を出しておりません。2002年のタイ全体のごみ発生量でいえば、有害産業廃棄物は96万3000トンですが、一般廃棄物は1440万トンと1.5倍の量が発生しています。一般廃棄物の内容としては、生ゴミ(51%)、プラスティック類(22%)、紙(13%)、ガラス類(3%)等が主なものです。
日本企業が一般廃棄物処理にまだ手を出していない原因のひとつには、産業廃棄物処理(特に有害廃棄物処理)は一般廃棄物処理に比べて約10倍の処理料金を排出源の民間企業から徴収できるのに対し、一般廃棄物については各世帯から毎月定額のごみ料金(1世帯あたり月20〜40バーツ程度、1バーツは約3円)を集めているが、このごみ料金が安すぎることと料金徴収率が20%程度ときわめて低いことがあげられます。実際、どの自治体もごみ収集・処理に関しては赤字で運営しており、住民からの税金で赤字を補填しています。(実は日本でも、家庭ごみの収集・処分料金の多くは税金でまかなわれていますが)
つまり、民間企業としては、ごみ料金を費用にみあった金額に増額する(つまり、法律によって月40バーツと上限額が決められているごみ料金の上限額を撤廃し、従量制の料金体系へと移行する)ことが可能になり、また、ごみ処理だけではなかなかもうかる事業にはならないので、より利益がでやすいリサイクル事業等(生ごみの堆肥化やバイオガス発電も含みます)をあわせて実施するために、現在インフォーマルにリサイクルを行っている人達(Salengという三輪車で家庭から有価ごみを買い取って回る人達、収集途中で有価物を抜き取る市の収集人達、ごみ捨て場で有価物をあさる人達、と3段階で有価物が抜き取られる構造になっています)を今後どうするのかを政府がはっきりした態度を取ってくれない限り、リスクが大きすぎて投資できないというのが実状なのです。
実は日本の廃棄物処理業者も、創業者はインフォーマルな廃品回収業者から出発したところが多く、その歴史を考えれば、タイでもごみのリサイクルをインフォーマルに実施している人達を組織化し、リサイクル産業へと再編していく可能性は十分あるといえます。そして、そのためには政府による「政策的な誘導」が重要だと私達は考えています。シサケットでは、最終処分場に暮らしているごみあさりの人達(下記写真)を登録して、徐々に組織化を図っていこうという動きも出ています。

シサケットの最終処分場に暮らしているごみあさりの人達
つまり、ごみ収集・処理の民間委託を促進するためには、地方自治体が単に民間企業に丸投げ的に委託契約を行うのではなく、地方自治体がごみ料金に関する新政策やごみの分別収集やリサイクルに関する新政策を立案・実施して、民間が投資しやすい環境をまず作り、さらに民間が創意工夫をこらせるような柔軟な形の契約形態を用意することが大切なのです。
(6)タイの民営化の失敗の経験と政府の役割の重要性
タイ政府は1992年の国家環境品質法(NEQA)で、地方自治体がごみ処理サービスを民営化することを許可しており、その後の国家開発計画でも効率的なサービス提供と国家財政への負担の減少の観点から民営化が推奨されていますが、これまで民営化のケースは少なく、またそのわずかな民営化の例でも成功例はさらに少なかったのが実態です。ピサヌローク等の市では、民営化後満足のいくサービスが民間企業から提供されなかったため、再び公営化したほどです。このような民営化の失敗の大きな原因は、上述したような地方自治体が果たすべき政策面からの支援をおろそかにしたまま、民間企業に丸投げ的に安易に民営化を実施した点にあるといえます。その意味から、本調査では民営化(Privatization)という言葉を避け、官民協力(Public-Private Partnership)という言葉を使用して、「政府が果たすべき役割」を強調しています。
(7)タイの民間企業の能力育成の必要性
また、タイの民間企業の方も十分な能力がないまま、安易に委託契約を引き受けたところが多く、契約上のサービスさえ満足に提供できずに撤退した会社もあります。そこで、本調査では日本の廃棄物処理業者がタイの廃棄物処理業者に技術・資金協力する可能性についても検討しており、現在関心のあるタイ企業と日本企業の間でお見合いの話を少しずつ進めております。日本企業としては、すぐにタイに投資するというリスクはなかなかとれませんので、まずは人的交流やつきあいを深めていくところから始めて行きたいと考えています。
(8)自治体間連携による広域施設の可能性
本調査でもうひとつ議論になっているのは、タイの自治体間の協力・連携による広域ごみ選別・処分施設の建設・運営の可能性です。日本では、都市部で最終処分場(埋立地)を作る立地が限られてきているため、都市が周辺の市町村と協力して(複数の市町村による広域衛生組合を設立して)、参加する自治体がごみ量に応じて資金を分担して、周辺の町村部に立地する広域ごみ選別・処分施設を建設・運営するという例があります(町村部の自治体にとっては、単独でごみ処理施設を建設するより少ない分担金で施設ができるというメリットがあります)ので、このタイ版ができないかと検討しているわけです。
タイの地方自治体は、バンコク首都圏とパタヤ特別市以外に、Provincial Administrative Organizations(略称PAO、全国に76ある、日本でいう県庁にあたる)、Municipalities(全国に1,129ある、日本でいう市役所にあたる)、Tambon Administrative Organizations(略称TAO、全国に6,746ある、日本でいう村役場にあたる)というさまざまなレベルからなっていますが、ごみ問題でこれまで環境保全基金が融資の対象としてきたMunicipalitiesは実はまだましな状況の方で、一番の問題は全くごみ収集・処理が行われていない(つまり、ごみが投げ捨て状態にある)TAOが農村部に多数あることです。
そこで、私達はMunicipalitiesに周辺部のTAOを巻き込んだ形での広域ごみ選別・処理施設を建設できないかと考えているのですが、じつはすでに周辺部のTAOからのごみを受け入れているMunicipalitiesは結構あります。問題は、周辺部のTAOとの政策協調がなく、また非常に安価にごみを受け入れているため(1トン130-200バーツ程度)、埋立地の残り容量が少なくなってきたので、ごみ減量やリサイクルに取り組もうとしても、周辺のTAOからの協力が得られる保証がないという点にあります。そこで、本調査団では、広域自治体連合(Union)のような組織をまず作ってもらい、そのような場で各自治体間が対等の立場でゴミ料金や分別収集・リサイクル制度に関する政策協議や政策協調を行える体制を構築してから、広域ごみ選別・処分施設を建設・運営することを提案しています。
日本では、中央政府による地方自治体のごみ選別・処分施設への補助金は、対象となる市町村のごみ量に応じた規模の施設に対してしかでませんので、効率のよい大規模処理施設を作るためには、自治体が広域自治体連合をつくって補助金を申請する必要があったのですが、ここタイでは実際の地方自治体におけるごみ需要よりも大規模なごみ処理施設が環境保全基金からの融資等で建設される例が多く、また地方自治体同士で協力し合って広域ごみ処分場を建設する政策的な仕組みもまったくできていませんので、今後はゴミ発生量に応じた融資規模の適正化や、自治体間連携による広域処分場建設への促進策・優遇策といった政策が必要といえます。
以上、調査の内容を簡単に報告させていただきましたが、実は私はタイの専門家でもなく、またごみの専門家でもありません。したがいまして、上述の内容のほとんどがこの調査期間中に、団長を始めとするメンバーの方々から、門前の小僧よろしく学ばせていただいたことなのですが、私の理解力不足や不勉強のために、不注意に間違って記述してしまったこともあるかもしれません。その際は後学のためにも遠慮なく間違いをご指摘していただければ幸いです。
(1)本調査に至る経緯
本調査は、2002年11月に提案型調査としてJBICにプレ・プロポーザルを提出し、2003年1月に本プロポーザルを提出し、2003年2月にJBICによる面接・プレゼンテーション審査を受けた結果、2003年3月にJBICによって採択され、2004年3月にタイ側カウンターパート(天然資源環境省の公害防止局及び天然資源・環境政策・計画部)と合意書を取り交わして開始されたものです。聞くところによると、大変な数の応募があった中、採択された数少ない提案型調査ということです。
本調査がきびしい競争を勝ち抜いてJBICに採択された理由を私なりに推測してみますと、(a)JBICが過去に実施した事業(タイ国環境保全基金事業)に密接に関連した(発展的な)案件であり、かつ(b)提案者(廃棄物政策研究所の代表和田英樹氏)がJBICの仕事(タイ国環境保全基金事業の案件実施支援調査(SAPI)フェーズ1及びフェーズ2)の経験があり、さらに(c)日本の民間がもっている廃棄物処理業・リサイクルの経験を移転するというアイデアが評価された、と感じております。
タイ国環境保全基金事業は、タイの地方自治体(municipalities)がごみ・下水処理施設を整備促進することを目的に、1994年から2004年1月まで実施された円借款案件(エンジニアリング・サービス実施:パデコ)ですが、地方自治体におけるごみ・下水処理施設の整備がなかなか進まないという問題が生じたため、2001年秋にこの案件の案件実施支援調査(SAPI)フェーズ1(実施:日本工営)が実施され、地方自治体向けのごみ・下水処理施設整備の案件形成マニュアルを作成し、地方自治体向けの研修を実施しました。さらに、2003年秋には、具体的に3つの地方自治体を選んで、ごみ処理施設整備というハードウエアだけではなく、ごみの収集からリサイクルに至るまでのソフトウエアも含んだ総合的な戦略計画策定を支援するSAPIフェーズ2(実施:廃棄物政策研究所・日本工営)が実施されました。
じつは私が廃棄物政策研究所(社員数わずかに3名の会社です)の和田英樹氏と知り合ったのも、2001年秋に実施されたSAPIフェーズ1の時で、和田氏は当時私と同じく一団員として参加されていましたが、和田氏の「大局観をもった精力的な仕事ぶり」は当時から調査団の中でぬきんでていて、カウンターパートの評価も高かったことをよく覚えています。なお、和田氏はSAPIフェーズ2では団長を務めています。
(2)本調査の目的
本提案型調査は、このような流れの中で、SAPIフェーズ2のフォローアップをしながら、かつ日本の廃棄物処理業の経営・技術ノウハウを活用してタイの地方自治体に協力する可能性を、官民協力(Public-Private Partnership、略してPPPといいます)というフレームワークの中で探っていこうという目的で実施されました。
(3)本調査の特徴:日本の経験を移転する
この調査が生まれた背景には、今回の調査団長の和田氏の中に、日本の経験をタイに持ち込むには、実際に日本でごみ問題に取り組んできた経験を持つ人を連れてきたい、それには日本の廃棄物コンサルタントではなく、実際に最終処分場の建設・運営や住民対策や廃棄物起源のリサイクル事業に取り組んでいる日本の廃棄物処理業の人に来てもらうのが一番ということになり、今回の調査には日本の廃棄物処理業((株)ヤマゼン)の方2名が参加しました。実際に彼らは今回の調査期間中に4つの地方自治体の最終処分場(埋立地)を視察しましたが、彼らの経験から具体的な最終処分場運営の改善策を提言してもらえましたし、また民間企業として将来タイに協力する可能性についても忌憚のない意見を出していただけました。
(4)タイのごみ処理の現状と日本の経験との関連性
タイではこれまで1000以上のごみ最終処分場(埋立地)が建設されてきましたが、そのうち国家の環境基準(悪臭、汚水等)を満たしているのは、環境保全基金などによって融資されて最近建設された104カ所にすぎず(その中で「衛生埋立」と呼ばれる国際的な環境基準に達しているのは、さらに10分の1ほどしかないのが現状です)、まだまだopen dumpingと呼ばれる、何の処理もせずにごみをただ捨てるだけのごみ捨て場が多いのが現状です。さらに悪いことには、衛生埋立地として設計され、施設的にはその条件を満たしているにも関わらず、管理・運営予算の不足や管理者の不在あるいは意識の低さから、しっかりした管理・運営がなされていないために、悪臭・汚水問題が発生している最終処分場が多々あります。一例として、私達がタイ東北部のコンケンで見た管理の悪い最終処分場の写真を下記につけておきます。

タイ東北部コンケン市の悪臭漂う最終処分場
このようなごみ捨て場からの悪臭・汚水による環境問題は周辺住民からごみ捨て場の新規建設反対運動(Not In My Back Yardを略してNIMBY問題といわれています)が起こる原因となり、またごみ捨て場の劣悪な環境の中で労働と生活をせざるを得ないごみあさりの人達(英語ではscavengersと言っていましたが、より中立的なwaste pickersという言い方に言い換えるようになってきています)への健康被害問題も大きな問題となってきています。
和田氏によると、日本でも30年ほど前は同じような状況の処分場が普通に見られたそうです。しかし、その後、日本はリサイクル可能なごみ(紙、金属、びん等)の「分別収集」を、自治体の政策によって強制的に導入しました。また、土地のない日本では焼却炉が普及したために、日本の最終処分場は焼却灰を埋め立てる衛生埋立が多いのですが、この最終処分場が政府が決めた構造基準を遵守しているため、現在では悪臭はほとんどなく、また汚水管理もしっかりとなされており、周辺住民からの苦情も大幅に減ったそうです。
このように、ごみ問題は、単にごみ処理施設というハードウエアを建設するだけで解決する単純な問題ではなく、政府による強力な誘導政策(特にごみの分別収集・リサイクル政策)、民間企業の育成と技術開発、行政による民間企業への柔軟な委託制度と適正な監督・指導体制、住民の意識改革と住民参加、等と「社会システム」全体にまたがる解決策が必要な、きわめて総合的・社会的な問題であり、援助でも、政策提言、住民への教育活動、地方自治体や民間企業の能力開発・育成といったものを含んだ総合的な処方箋の実施を支援することが重要になってきます。
ちなみに、ごみの混合収集(ごみを分別しないで収集すること)が当たり前となっているタイで、日本のごみの分別収集の話をしますと、タイ人からは「タイ人は日本人ほど勤勉でないから、ごみを家庭で分別してもらうなんて無理だ」という答えが必ず返ってきますが、皆様もよくご存じのように、日本人が勤勉だから自ら進んでごみの分別をしているというわけでは決してありません。日本人は自治体によって分別を「強制」されているので(つまり、分別しないとごみを収集してくれないので)、分別収集に協力せざるをえなくなっているというのが実態なのです。
タイでも、学校やNGO等を中心に、ごみ銀行(ごみを持って行くと、それを金額換算して銀行預金としてくれる)や、有価ごみを栄養価の高い卵に交換してくれる運動(Garbage for Eggs)や、EM菌を利用した生ゴミの堆肥化に取り組む等、小規模なリサイクル活動が始まってきていますが、まだまだ規模が小さく散発的なことが弱点です。今後、リサイクル活動を本格化し広域に普及していくためには、どうしても地方自治体による誘導政策が必要だといえます。参考までに、下記にごみを原材料にして装飾品を作って販売している、タイ東北部のシサケットの学校の写真と、コンケンでNGOが生ゴミから堆肥を作っている様子の写真をつけておきます。

ごみを原材料にして装飾品を作って販売しているタイ東北部のシサケットの学校

生ゴミから堆肥を作っているコンケン市のNGO
したがって、自治体がごみの分別収集の必要性(リサイクル率の向上とごみ収集・処理コストの低減に有効)を住民に十分に説明して実施に移していくという「強い意志」を持つことがまずなによりも重要だと私達は考えており、そのようにタイの自治体にはっぱをかけています。もっともごみ収集サービスが普及していない地域、すなわちごみがどこにでも投げ捨てられているような地域では、まずはごみ収集サービスを普及して、住民の衛生観念向上と衛生的な環境作りを確立することが先決だといえますが。
(5)日本の民間企業の参入可能性と政府による支援政策の重要性
これまでにもタイに進出してきた日本の廃棄物処理業者がないわけではないのですが、すべて工業団地における日系企業の産業廃棄物処理を対象にしており、地方自治体が扱っている一般廃棄物処理にはまだどの日本企業も手を出しておりません。2002年のタイ全体のごみ発生量でいえば、有害産業廃棄物は96万3000トンですが、一般廃棄物は1440万トンと1.5倍の量が発生しています。一般廃棄物の内容としては、生ゴミ(51%)、プラスティック類(22%)、紙(13%)、ガラス類(3%)等が主なものです。
日本企業が一般廃棄物処理にまだ手を出していない原因のひとつには、産業廃棄物処理(特に有害廃棄物処理)は一般廃棄物処理に比べて約10倍の処理料金を排出源の民間企業から徴収できるのに対し、一般廃棄物については各世帯から毎月定額のごみ料金(1世帯あたり月20〜40バーツ程度、1バーツは約3円)を集めているが、このごみ料金が安すぎることと料金徴収率が20%程度ときわめて低いことがあげられます。実際、どの自治体もごみ収集・処理に関しては赤字で運営しており、住民からの税金で赤字を補填しています。(実は日本でも、家庭ごみの収集・処分料金の多くは税金でまかなわれていますが)
つまり、民間企業としては、ごみ料金を費用にみあった金額に増額する(つまり、法律によって月40バーツと上限額が決められているごみ料金の上限額を撤廃し、従量制の料金体系へと移行する)ことが可能になり、また、ごみ処理だけではなかなかもうかる事業にはならないので、より利益がでやすいリサイクル事業等(生ごみの堆肥化やバイオガス発電も含みます)をあわせて実施するために、現在インフォーマルにリサイクルを行っている人達(Salengという三輪車で家庭から有価ごみを買い取って回る人達、収集途中で有価物を抜き取る市の収集人達、ごみ捨て場で有価物をあさる人達、と3段階で有価物が抜き取られる構造になっています)を今後どうするのかを政府がはっきりした態度を取ってくれない限り、リスクが大きすぎて投資できないというのが実状なのです。
実は日本の廃棄物処理業者も、創業者はインフォーマルな廃品回収業者から出発したところが多く、その歴史を考えれば、タイでもごみのリサイクルをインフォーマルに実施している人達を組織化し、リサイクル産業へと再編していく可能性は十分あるといえます。そして、そのためには政府による「政策的な誘導」が重要だと私達は考えています。シサケットでは、最終処分場に暮らしているごみあさりの人達(下記写真)を登録して、徐々に組織化を図っていこうという動きも出ています。

シサケットの最終処分場に暮らしているごみあさりの人達
つまり、ごみ収集・処理の民間委託を促進するためには、地方自治体が単に民間企業に丸投げ的に委託契約を行うのではなく、地方自治体がごみ料金に関する新政策やごみの分別収集やリサイクルに関する新政策を立案・実施して、民間が投資しやすい環境をまず作り、さらに民間が創意工夫をこらせるような柔軟な形の契約形態を用意することが大切なのです。
(6)タイの民営化の失敗の経験と政府の役割の重要性
タイ政府は1992年の国家環境品質法(NEQA)で、地方自治体がごみ処理サービスを民営化することを許可しており、その後の国家開発計画でも効率的なサービス提供と国家財政への負担の減少の観点から民営化が推奨されていますが、これまで民営化のケースは少なく、またそのわずかな民営化の例でも成功例はさらに少なかったのが実態です。ピサヌローク等の市では、民営化後満足のいくサービスが民間企業から提供されなかったため、再び公営化したほどです。このような民営化の失敗の大きな原因は、上述したような地方自治体が果たすべき政策面からの支援をおろそかにしたまま、民間企業に丸投げ的に安易に民営化を実施した点にあるといえます。その意味から、本調査では民営化(Privatization)という言葉を避け、官民協力(Public-Private Partnership)という言葉を使用して、「政府が果たすべき役割」を強調しています。
(7)タイの民間企業の能力育成の必要性
また、タイの民間企業の方も十分な能力がないまま、安易に委託契約を引き受けたところが多く、契約上のサービスさえ満足に提供できずに撤退した会社もあります。そこで、本調査では日本の廃棄物処理業者がタイの廃棄物処理業者に技術・資金協力する可能性についても検討しており、現在関心のあるタイ企業と日本企業の間でお見合いの話を少しずつ進めております。日本企業としては、すぐにタイに投資するというリスクはなかなかとれませんので、まずは人的交流やつきあいを深めていくところから始めて行きたいと考えています。
(8)自治体間連携による広域施設の可能性
本調査でもうひとつ議論になっているのは、タイの自治体間の協力・連携による広域ごみ選別・処分施設の建設・運営の可能性です。日本では、都市部で最終処分場(埋立地)を作る立地が限られてきているため、都市が周辺の市町村と協力して(複数の市町村による広域衛生組合を設立して)、参加する自治体がごみ量に応じて資金を分担して、周辺の町村部に立地する広域ごみ選別・処分施設を建設・運営するという例があります(町村部の自治体にとっては、単独でごみ処理施設を建設するより少ない分担金で施設ができるというメリットがあります)ので、このタイ版ができないかと検討しているわけです。
タイの地方自治体は、バンコク首都圏とパタヤ特別市以外に、Provincial Administrative Organizations(略称PAO、全国に76ある、日本でいう県庁にあたる)、Municipalities(全国に1,129ある、日本でいう市役所にあたる)、Tambon Administrative Organizations(略称TAO、全国に6,746ある、日本でいう村役場にあたる)というさまざまなレベルからなっていますが、ごみ問題でこれまで環境保全基金が融資の対象としてきたMunicipalitiesは実はまだましな状況の方で、一番の問題は全くごみ収集・処理が行われていない(つまり、ごみが投げ捨て状態にある)TAOが農村部に多数あることです。
そこで、私達はMunicipalitiesに周辺部のTAOを巻き込んだ形での広域ごみ選別・処理施設を建設できないかと考えているのですが、じつはすでに周辺部のTAOからのごみを受け入れているMunicipalitiesは結構あります。問題は、周辺部のTAOとの政策協調がなく、また非常に安価にごみを受け入れているため(1トン130-200バーツ程度)、埋立地の残り容量が少なくなってきたので、ごみ減量やリサイクルに取り組もうとしても、周辺のTAOからの協力が得られる保証がないという点にあります。そこで、本調査団では、広域自治体連合(Union)のような組織をまず作ってもらい、そのような場で各自治体間が対等の立場でゴミ料金や分別収集・リサイクル制度に関する政策協議や政策協調を行える体制を構築してから、広域ごみ選別・処分施設を建設・運営することを提案しています。
日本では、中央政府による地方自治体のごみ選別・処分施設への補助金は、対象となる市町村のごみ量に応じた規模の施設に対してしかでませんので、効率のよい大規模処理施設を作るためには、自治体が広域自治体連合をつくって補助金を申請する必要があったのですが、ここタイでは実際の地方自治体におけるごみ需要よりも大規模なごみ処理施設が環境保全基金からの融資等で建設される例が多く、また地方自治体同士で協力し合って広域ごみ処分場を建設する政策的な仕組みもまったくできていませんので、今後はゴミ発生量に応じた融資規模の適正化や、自治体間連携による広域処分場建設への促進策・優遇策といった政策が必要といえます。
以上、調査の内容を簡単に報告させていただきましたが、実は私はタイの専門家でもなく、またごみの専門家でもありません。したがいまして、上述の内容のほとんどがこの調査期間中に、団長を始めとするメンバーの方々から、門前の小僧よろしく学ばせていただいたことなのですが、私の理解力不足や不勉強のために、不注意に間違って記述してしまったこともあるかもしれません。その際は後学のためにも遠慮なく間違いをご指摘していただければ幸いです。
コメント
はじめまして
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生ゴミ堆肥
田中さま
はじめまして。平岡と申します。上記投稿を大変興味深く読ませていただきました。といいますのも、小職が2001年から2006年までバンコクにあるFAOのアジア太平洋事務所に土壌担当として勤務していた頃、都市の生ゴミ堆肥を利用した近郊野菜生産を考えたことがあり、カンボジア(プノンペン)、タイ(ノンタブリ)、バングラディッシュ(ダッカ)で堆肥製造施設や周辺農家の営農等の視察や、農業サイドからの発表などをしておりました。カンボジアではFAOの小規模パイロットプロジェクト案件としてノミネートされましたが、残念ながら実現しませんでした。
数年前までは、単位栄養素あたりの価格について堆肥の方が高かったために、生ゴミ堆肥はややコスト的に厳しいか、と思っていましたが、昨今の農業投入資材の高騰や環境に配慮した開発の流れが加速していることもあり、真剣に検討してもいい時期に来ているのではないかと思っております。また、日本が今後アフリカへの支援を強化していく中で、環境と農業生産の両面にプラスになるこのような取り組みは面白いのでは、と思っています。アフリカでもタイと同じく、生ゴミ堆肥化の動きはありますけど、散発的だと聞きます。コスト面や制度面が大きな課題になると思います。
乱筆乱文失礼しました。
平岡
はじめまして。平岡と申します。上記投稿を大変興味深く読ませていただきました。といいますのも、小職が2001年から2006年までバンコクにあるFAOのアジア太平洋事務所に土壌担当として勤務していた頃、都市の生ゴミ堆肥を利用した近郊野菜生産を考えたことがあり、カンボジア(プノンペン)、タイ(ノンタブリ)、バングラディッシュ(ダッカ)で堆肥製造施設や周辺農家の営農等の視察や、農業サイドからの発表などをしておりました。カンボジアではFAOの小規模パイロットプロジェクト案件としてノミネートされましたが、残念ながら実現しませんでした。
数年前までは、単位栄養素あたりの価格について堆肥の方が高かったために、生ゴミ堆肥はややコスト的に厳しいか、と思っていましたが、昨今の農業投入資材の高騰や環境に配慮した開発の流れが加速していることもあり、真剣に検討してもいい時期に来ているのではないかと思っております。また、日本が今後アフリカへの支援を強化していく中で、環境と農業生産の両面にプラスになるこのような取り組みは面白いのでは、と思っています。アフリカでもタイと同じく、生ゴミ堆肥化の動きはありますけど、散発的だと聞きます。コスト面や制度面が大きな課題になると思います。
乱筆乱文失礼しました。
平岡
投稿ありがとうございます
投稿ありがとうございます。アフリカでのゴミ堆肥化計画、おもしろそうですね。
ところで、平岡さんは1990年代後半に汲田さんの日本沙漠開発協会のお仕事を手伝ってくださった平岡さんでしょうか? 私は当時お隣のECFAにいてお名前は聞いたことがあります。もし同じ方なら、なつかしいですね。
ところで、平岡さんは1990年代後半に汲田さんの日本沙漠開発協会のお仕事を手伝ってくださった平岡さんでしょうか? 私は当時お隣のECFAにいてお名前は聞いたことがあります。もし同じ方なら、なつかしいですね。
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HPでタイのゴミ事情を紹介したいのですが、なかなか見つかりません。
JETROの資料は少し古いので新しいものをと探していたところ、田中様のブログに
たどり着きました。そこでお願いです。
田中様の「タイのゴミ調査に参加して」の記事の一部転記と写真を使わせていただくわけにはいきませんか?勿論、田中様のご紹介もさせていただきます。
よろしくお願いいたします。